sacqueline’s diary

久しぶりに読書にはまりました。読んでいった本の覚書と読書感想です。

孤児 ファン・ホセ・サエール 寺尾隆吉訳

 心に残ったところ

つまり、ある出来事を覚えているからといって、それが本当に起こったとは限らない、ということだ。同じように、過去に見たことがあるはずの夢を何ヶ月、何年経ったあとで思い出しても、それが、前日の夜見た夢ではなくて、遠い過去に見た夢であったという保証はないし、そもそも、過去のこととして今頭に思い浮かぶ出来事が、必ずしも過去な出来事であるとは限らないのだ。

 死という一度きりの事件を迎えているのだった。 死と記憶はその点が共通するのであり、どちらも、一人ひとりそれぞれにとって唯一無二なのだ。同じ経験を誰かと共にすると、他者と記憶を共有しているように人は思い込むものだが、実際には、記憶は一人ひとり違っており、死が孤独であるのと同じく、 記憶もやはり 孤独を免れない。記憶とは独房のようであり、生まれてから死ねまで、人は記憶の独房に閉ざされて生きている。つまり記憶とは死なのだ。